これまでに、弁護士ドットコムや読売新聞大手小町に掲載された私の記事を紹介します。
遺産分割や遺言といった相続の分野では、法律的にいろいろな落とし穴があります。
司法書士や税理士、それに相続に関する法律全般を扱う弁護士であっても、慎重に検討して事を進めないと大きな禍根を招くことがあります。
問題の芽を抱えておられたり、ご不安なことがおありでしたら、インターネットや書籍で調べるだけではなく、弁護士の法律相談にお越しください。病院と同様、相談者の「症状」に合わせたアドバイスをします。
遺留分減殺請求は、「いりゅうぶん・げんさい・せいきゅう」と読みます。
「遺留分」とは、故人が本来自由に処分できる範囲を超えて贈与や遺贈(遺言贈与)を行った場合、他の相続人が有する権利のことです。
たとえば、2人兄弟で、すでに母親が死去しているとして、父親が「すべての財産を長男に相続させる」との遺言を書いたとします。
そのような場合には、二男は、本来は2分の1の法定相続分を有するのですが、さらにその2分の1である4分の1が遺留分となります。
なお、兄弟姉妹には遺留分は認められていません(民法第1028条 - Wikibooks)。
「減殺請求」とは、遺留分を侵害する部分に限って贈与や遺贈(遺言贈与)を否定する請求です。
相手方に対する意思表示によって行使します。訴訟による行使も、訴訟によらない行使も可能です。
遺留分減殺請求権の行使期間は、遺留分減殺請求権者が自己の遺留分を侵害されたことを知ったときから1年間です(民法第1042条 - Wikibooks)。
「侵害を知ったときから」ですので、たとえば、遺言書の内容を知ったときから、ということになります。よって、被相続人が亡くなってから1年経過後でも行使が認められる可能性があります。
ただ、期間制限内か否かの争いも生じかねませんので、気をつけたほうが良いでしょう。
シビアな期間制限がありますので、一般的には、最初に内容証明郵便(配達証明つき)で遺留分減殺請求の意思表示をします。
その後、交渉・調停・訴訟を進めていくことになります。
遺留分減殺請求をすることができると法律が定めている期間が過ぎたあとでは、対処が非常に困難になります。
よって、特に、遺留分減殺請求が関係しそうなケースでは、弁護士に相談をするのは、早いほうがいいでしょう。
中には、遺言の内容だけではなく、遺言の作られ方に疑義があるなどして、遺言の有効性までもが問題になるケースもあります。
「遺言無効」となるハードルは低くはありませんが、疑問があるときには、遺言無効についても検討した方がいいでしょう。
以前、ブログで、同じ問題を取り扱いました。
相続人たちの間で話がまとまらないときは,どうなるのでしょうか? 遺産分割の決着がつくまで,預貯金は凍結されたままなのでしょうか? また,個別に払戻しを受けられるとしたら,どの範囲で払い戻してもらえるのでしょうか?
この問題については,最重要の判例が存在します。
「相続人が数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは,その債権は法律上当然分割され,各共同相続人が,その相続分に応じて権利を承継する」(最高裁昭和29年4月8日判決,民集8・4・819)という内容の判例です。
ここで注意すべきは,預金債権も可分債権であるということです。ですから,被相続人が現金や預金を残して死亡した場合には,相続人たちは,それぞれ,その法定相続分に応じて,権利を承継するのです。
預金の権利というのは,法律的に表現すると,「金融機関に対して,預けたお金を返してください」と言える権利です。
この権利を,各相続人が,自分の法定相続分の割合で取得するのです。
平成28年(2016年)12月19日、最高裁判所で画期的な新判例が出ました。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86354
この新判例が出る前は、
この新判例が出た後は、
と変化しました。
判例変更前は、「特別受益や寄与分と関係なく、各相続人は金融機関に法定相続分に基づいて預金の払戻しを請求できる」という帰結になっていました。
法定相続分で払戻しをすると後々トラブルになりやすいので、任意には払戻しを渋る金融機関が多かったとは思われますが、裁判所に訴訟提起をすれば払戻しを命ずる判決が出るという仕組みになっていました。
しかし、判例変更後は、預貯金も遺産分割が済むまでは、法定相続分による「当然分割」になりません。そのため、金融機関は、各相続人から法定相続分の払戻しを請求されても遺産分割が整うまでそれを拒絶するという法的根拠を得たということになります。
金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平